英国ロイヤル・バレエ団 シネマ《ドン・キホーテ》お見逃しなく!

1月26日からロイヤル・バレエ《ドン・キホーテ》がシネマで1週間だけ上演されますのでお見逃しなく〜

ドン・キホーテは明るく楽しく、シンプルなわかりやすいストーリー、かつ人が織りなすドラマのバレエなので、バレエ初心者の方やお子さんにもおすすめです。

途中には夢の場面があって、純粋なクラシック・バレエも楽しめますし、音楽も衣装も彩が鮮やかで、テクニック満載、バレエが苦手な方でも飽きないバレエNo. 1と言えるのではないでしょうか。

↓この映像はこのシネマがライブ収録された公演のリハーサル風景です。シネマの途中でもこれらの映像やライブのインタビューによってバックステージを観れるのもシネマの大きなお楽しみです。

バレエのシーズンは秋からスタートしますが、今年度はカルロス・アコスタ版ドン・キホーテから始まりました。

目次

キャスト

このドン・キホーテのキャストは過去記事をご覧ください。

鑑賞レポ

上映初日は日本橋の映画館がほぼ満席でした。さすが、マシューとマヤラ人気も相まって、ドンキは人気がありますね。

チャールズ国王とカミラ王妃のご臨席とあって、いつもはバックステージのナビゲーターのダーシー・バッセルとリラックスした雰囲気でゆるりと会話をするケヴィン・オヘア芸術監督も、やや緊張した面持ちで会話をサクッと切り上げていました。

チャールズ国王はロイヤル・オペラハウスのパトロンですし、カミラ王妃はなんと今もバレエのレッスンを受けているそうです。ダーシーが「シルバー・スワン=高貴な白鳥」なんて言ってて可笑しかったです。もちろんこのシルバーは和製英語のようにお年寄りという意味は全くないですよ〜

キトリとバシリオについては特に1幕の圧巻のパフォーマンスが胸に残りました。マヤラはアップライトで回転の切れと安定感があるので、キトリのテクニックはハマりますね。脚先、アームスもかなりスタイルをリハーサルしてきていて丁寧で好感を持ちました。次は抜け感、キトリの洒脱さが醸し出されると最高ですね。

マシューもマヤラに負けじと、僕のテクニック全部見せるぞーという感じで、しかも粗さや甘いところがなく素晴らしい出来栄えでした。出し切ってない?3幕まで持つ?と余計な心配もしてしまいました。

アコスタ版ドンキの特徴でもあるのですが、説明の場面がとても多く上演時間が長いです。いいところの多いヴァージョンで嫌いではないので、私的には1幕の冒頭と2幕と3幕の一部の場面の間延びした内容を改訂して欲しいな〜と感じていて、今回もやっぱり途中で何回かマイベストの「バリシニコフ版ドン・キホーテ」が脳裏に浮かびました。

今回はギャリーさんがドン・キホーテだったことがあり、ドルシネア姫が現れるプロローグは絵画のように美しく、物語のストーリーラインを示していてとても良かった。でもその後のサンチョ・パンサのドタバタは必要ないと思うんですよねー。

カルロスはセルバンテスのドン・キホーテを現代にマッチさせようとしすぎているように感じます。キトリとバシリオたちとは切り離して、騎士物語を読みすぎて現実と物語の区別がつかなくなったドン・キホーテと、夢物語の約束を信じて従者になったサンチョ・パンサは、そのキャラクターと関係性のままがいいと思うんですよね…

従来のバレエ《ドン・キホーテ》をカルロスが変えたかったように、ドン・キホーテを正気でない人のように演じさせる必要もないし、サンチョ・パンサを奴隷のように扱う必要もないので。もっとスッキリと改訂してくれないかなあ(笑)

主役以外で特筆したいダンサーたちは、エスパーダのカルヴィン・リチャードソン、キトリの友人の前田紗江ちゃんとソフィー・アルナット、ロマのレオ・ディクソン、あと4人の貧しい身なりの少年のひとり。誰でしょう?!というのも私、今回間抜けなことにメガネを忘れてしまい、細かい表情までよく見えないくらいの視力で見る羽目になってました、無念。

エスパーダのカルヴィンが大技をダイナミックかつ超クリーンに決め、男前でセクシーな2枚目の役どころを大真面目に硬く演じることでユーモアに見せていて、マイベストエスパーダかも!

キトリ友人の紗江ちゃんとソフィーの2人は非常に息のあったアンサンブルで、大変美しくシンクロしていて目を奪われました。シャープで素早いステップ、可愛らしさ、キトリの友人に求められる全ての要素が、持つテクニックや姿が似ている2人にぴったり。

バリシニコフ版ではバジル(=バシリオ)がソロで踊る、血を湧き立たせるロマ風の素晴らしい音楽が、アコスタ版ではロマの踊りになっていますが、レオの伸びやかな踊りがハマってワクワクしました。

普通ならメルセデスやロマの主役女性などが印象に残るはずですが、やはりカルロスが男性ダンサーのせいか、男性ダンサーを生かすヴァージョンなんでしょうね。キトリはほぼプティパなので問題ないですが、ソリストの女性ダンサーの振付や演出にあまり輝きがみられない気がします。

演出で言うと、2幕の冒頭ロマの野営地に到着したキトリとバシリオがアダージオを踊りますが、これにバヤデールの曲を使うのはどうにも馴染めません。あれだけ時間的にも内容的にもしっかり踊らせるのなら、このヴァージョンの白眉になるようにミンクスのもっと別な曲を探して「アコスタのドンキ」にして欲しかった…

2幕は他にも音楽や踊りのパーツを改変しすぎて構成が混迷しているような。ロマの踊りを見せたいの?そうでもないの?ドン・キホーテとなんで仲良しなの?結構長めなギターのアンサンブル演奏はバレエには不必要ではない?英語発音が混じる発声がスペインの雰囲気に合わなくない?夢の場面の背景がロマの野営地のまま!?などツッコミどころ満載なのも、観る楽しみかもしれません。

夢の場面は演出も舞台美術も衣装も好みでないのですが、さらに今回はアムールや森の女王のキャスティングも好みでなかったです。ドルシネア姫で登場するマヤラも、表情もスタイルも普通の人で、驚くほど天上感&キラキラ感のない夢の場面でした。

演奏はなんとヴァスコ・ヴァッシレフがゲスト・コンサートマスターで、彼の豊かなヴァイオリンの音色が沁みました。昨年5月のチャールズ国王の戴冠式の前の演奏でコンマスでしたから、ご臨席に合わせてのゲスト出演なんでしょう。

音楽はマーティン・イエーツがこのヴァージョンに合わせて、ミンクスのオリジナルを尊重してオーケストレーションをしているので、アコスタ版にしかない曲や、よく知っている曲も楽譜が違うので「!?」と、わかっていてもやはりちょこちょこ気になります。

キトリとバシリオの結婚がロレンツォに認めさせるプロットと演出が微妙なのは置いといて、この版ではガマーシュがほぼ踊らないのに、ジェームズ・ヘイがキャスティングされていて違和感を覚えます。本人の希望ならいいけどもったいない。

反対にサンチョ・パンサのリアム・ボズウェルはあの着ぐるみ状態でシャープなグランピルエットを披露して最後にサプライズ。あと今回めちゃくちゃ高い胴上げをされてましたが、あれは1回かせいぜい2回でいいです。あんなに何回もしなくても…冗長だし、ダンサーにかかる負担が本当に心配!

3幕も盛りだくさんで、このボリュームをエネルギッシュに踊れるロイヤルのダンサーのレベルの高さと層の厚さに改めて驚嘆しました。キトリとバシリオの結婚のグラン・パ・ド・ドゥはマヤラとマシューのスピード感溢れるターンや弾ける跳躍が素晴らしかった。

この時のゴージャスで品のある、美しい衣装もいいですよね。ロイヤルのドンキの白い長袖のチュチュはロイヤルならではのスペシャル感があり大好きです。男性の衣装も非常に手が込んでいるアートピースで大注目です。

アコスタの演出は、場面転換の効果が際立っていて演劇的に楽しめます。舞台にいるダンサー全員がエネルギッシュに全3幕を駆け抜けるイメージです。最後の大円団には舞台上に笑顔があふれ、フェスティヴ感満載。幕間のインタビュー映像でマシューが「舞台が終わったあと駐車場で踊りたくなる演目」というようなことを言ってましたが、私も脳内でドンキの音楽を歌いながら、ハッピーな気持ちで足取り軽く帰路につきました。

次回2月のシネマは《くるみ割り人形》

来月のシネマはピーター・ライト版《くるみ割り人形》です。季節外れではありますが日本に住んでいるので仕方ありません。楽しみ〜

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